所信表明演説要旨

 菅直人首相の所信表明演説の要旨は次の通り。

 【はじめに】
 「政治とカネ」の問題、米軍普天間飛行場移設をめぐる混乱により、政権への期待が大きく揺らいだ。前内閣の一員として責任を痛感している。私に課された最大の責務は、歴史的な政権交代の原点に立ち返って、この挫折を乗り越え、国民の信頼を回復することだ。
 民主党の中にも、私と同様、若くして身一つで政治の世界に飛び込んだ人がたくさんいる。志を持って努力すれば、誰でも参加できる政治をつくろうではないか。わが国では「官僚内閣制」の発想が支配してきたが、本来は「国会内閣制」だ。政治主導により、官僚主導の行政を変革しなければならない。広く開かれた政党を介して、国民の統治による国政を実現する。
 新内閣の政策課題として「戦後行政の大掃除の本格実施」「経済・財政・社会保障の一体的立て直し」「責任感に立脚した外交・安全保障政策」の三つを掲げる。
 【戦後行政の大掃除の本格実施】
 前内閣は事業仕分けで行政の透明性を飛躍的に高めた。限られた人材、予算を有効に活用するため、この取り組みを続行する。行政組織や国家公務員制度の見直しにも引き続き取り組む。行政の密室性の打破も進め、情報公開法の改正を検討する。
 住民参加による行政を実現するためには、地域主権の徹底が不可欠だ。各地の要望を踏まえ、権限や財源の委譲を丁寧に進めていく。
 【経済・財政・社会保障の一体的立て直し】
 過去20年間の経済政策は、「第1の道」「第2の道」の考え方に沿って進められてきた。「第1の道」とは「公共事業中心」。供給サイドに偏った、生産性重視の経済政策が「第2の道」。私たちが追求するのは「第3の道」だ。これは、経済社会が抱える課題の解決を新たな需要や雇用創出のきっかけとし、それを成長につなげようとする政策だ。
 「グリーン・イノベーション」「ライフ・イノベーション」「アジア経済」「観光・地域」を成長分野に掲げ、これらを支える基盤として「科学・技術」と「雇用・人材」に関する戦略を実施する。具体策を盛り込んだ「新成長戦略」を月内に公表し、官民を挙げて「強い経済」を実現する。2020年度までの年平均で、名目3%、実質2%を上回る経済成長を目指す。当面はデフレ脱却を喫緊の課題と位置付け、日本銀行と一体となって政策努力を行う。
 国債発行に過度に依存する財政は持続困難だ。無駄遣いの根絶と経済成長を実現する予算編成に加え、税制の抜本的改革に着手することが不可避だ。与党・野党の壁を越えた国民的な議論が必要ではないか。超党派の議員による「財政健全化検討会議」をつくり、建設的な議論を共に進めよう。
 年金制度については、記録問題に全力を尽くすとともに、現在の社会に適合した制度を一刻も早く構築することが必要だ。党派を超えた国民的議論を始めるため、新たな年金制度に関する基本原則を提示する。社会保障や税の番号制度の導入に向け、国民に具体的な選択肢を近く提示する。
 こうした施策に加え、「孤立化」という新たな社会リスクに対する取り組みを重視している。雇用や福祉などの分野で、支え合いのネットワークから誰一人として排除されることのない社会を実現する。
 【責任感に立脚した外交・安全保障政策】
 国際社会は地殻変動ともいうべき大きな変化に直面している。世界平和という理想を求めつつ、「現実主義」を基調とした外交を推進すべきだ。
 外交の機軸の日米同盟は、日本の防衛のみならず、アジア・太平洋の安定と繁栄を支える国際的な共有財産と言える。今後も同盟関係を着実に深化させる。
 アジアを中心とする近隣諸国とはさまざまな面で関係を強化し、将来的には東アジア共同体を構想していく。中国とは戦略的互恵関係を深め、韓国とは未来志向のパートナーシップを構築する。日ロ関係では、最大の懸案である北方領土問題を解決して平和条約を締結すべく、精力的に取り組む。気候変動問題の公平かつ実効的な国際的枠組みを構築するべく、国際交渉を主導する。
 北朝鮮については、哨戒艦沈没事件は許し難いものであり、韓国を全面的に支持しつつ、国際社会としてしっかりと対処する必要がある。拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的解決を図り、国交正常化を追求する。国の責任において、すべての拉致被害者の帰国に向けて全力を尽くす。
 普天間の移設・返還と一部海兵隊のグアム移転は何としても実現しなければならない。5月末の日米合意を踏まえつつ、沖縄の負担軽減に尽力する覚悟だ。今月23日の沖縄全戦没者追悼式に参加し、長年の過重な負担に対する感謝の念を深めたい。
 【結び】
 私の内閣が果たすべき使命は、20年近く続く閉塞(へいそく)状況を打ち破り、元気な日本を復活させることだ。これまで国家レベルの目標を掲げた改革が進まなかったのは、政治的リーダーシップの欠如に最大の原因がある。私の提案するビジョンを理解し、ぜひとも私を信頼してほしい。リーダーシップを持った首相になれるよう、国民の支援を心からお願いする。